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アンティーク懐中時計修理 香箱芯編

2017/03/17

このところすっかり春めいてきて、嬉しくて仕方ない。

 

以前から何度もお話ししているが、私は暑い分にはいくら暑くても構わない 「夏好き」 で、冬は大嫌いなのだ。

 

例年、11月に入る頃から次第にテンションが下がってゆき、そこから3月くらいまではひたすら我慢の日々。

 

今時分からようやっとテンションが上向くが、、、残念なことにこの時期は宿敵の 「杉花粉」 が飛んでいて、本格的に気分の高揚するのは、ゴールデンウィーク頃から。

 

つまり、快適なのは一年のうちたった半分ということになり、、、そういう意味では 「地球温暖化」 大歓迎、日本も完全に熱帯化し、冬など無くなってしまえばいいと本気で思うほどなのだ!!

 

 

さてさて、冗談はさておき、今日は久しぶりにアンティーク時計の修理のお話し。

 

気分のいい今日、朝イチの仕事は、懐中時計の香箱芯の修理だった。

 

機械式時計の構造に詳しくない方のために簡単に説明すると、、香箱芯とは、ゼンマイの格納されている香箱という 「空洞の歯車の芯棒」 のこと。

 

通常の 「手巻きの時計」 の場合、リューズ巻きの時計ならリューズで、鍵巻きの時計なら鍵でゼンマイを巻き上げることになるが、いずれの場合も、ゼンマイの巻き上げ動作とは、この「香箱芯にゼンマイをクルクルと巻き付けてゆく動作」 ということが出来る。

 

イメージとしては、コーンビーフの缶を開ける際に、付属の芯棒に蓋の縁をクルクルと巻き付けていく動作のような、、、といってもこれは大分昔の話かもしれないな、、(笑)

 

いずれにせよ、巻きつけられたゼンマイが蚊取り線香のような元の姿に戻ろうとして反発力を生み、これが香箱の回転力になる。

 

そしてこれが順繰りに香箱以降の歯車に伝わり、時計を動かすことになる、つまり、ゼンマイを巻き上げることが出来なければ、何も始まらないのだ。

 

 

一口に懐中時計の香箱芯といっても色々な形状のものがあるが、昨晩修復を開始した 「19世紀後期のスイス製クロノメーター懐中時計」 の場合、香箱芯はラチェットホイールと一体の芯にリング状のバンド部分がネジ止めされる、複雑な形状をしている。

 

どんな香箱芯にも、必ずゼンマイの内端(ゼンマイの始まりの部分)を引っ掛ける 「ツメ」 が必要なのだが、元々強い力の掛かる部分であるため磨耗したり、過去の分解作業中の不手際によって変形していることがある。

 

 

ちなみにこの時計の場合、おそらくツメは磨耗したのではなく、リング状の部分を香箱芯から外す際に、ペンチかプライヤーのような工具で掴んだことによって、潰れてしまっているように見え、、、ゼンマイが全く引っ掛からないことはないが、いつ外れてもおかしくない状態。

 

動力源として、特に強いゼンマイを必要とするこのクロノメーター懐中時計の場合、このままでは到底不充分なのだ。

 

 

行った修復のプロセスは、下記の通り。

 

①既存のツメの撤去・穴開け

この時代の懐中時計の多くの場合、ツメとリング部分は一体ではなく、リング部分に開けた穴に鋼材が圧入、またはネジ止めされ、その後整形されている

 

既存のツメを引っ張り出すことは事実上不可能であるから、該当部分にそのまま新たな穴を

開けてゆく

(よくあることだが、この時計の場合も、穴開けをしている途中で古いツメの切片がポロッと取れてきた)

 

②穴に圧入する鋼材を時計旋盤により製作し、リング部分に強く圧入する

ゼンマイを巻いているうちに緩んできてはまずいので、この寸法・圧入感は非常に重要。

 

③圧入した切片を整形し、ツメの形を整えて、完了

 

時計の修理項目の中には、正直言って非常に面倒な 「嫌な作業」 があるのだが、、、どういう訳だか、私はこの香箱芯のツメの修復作業が好きで、気分的にちっとも苦にならない。

 

特にこんな暖かい春の日差しの下での作業となると、、時間さえ許せば、何個でも続けてやっていたいような気がするほどなのだ。