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懐中時計講座・第4回 HOWARD WATCH CO.

懐中時計講座

(公開日: 2009/11/27)

第4回 HOWARD WATCH CO. ハワード

アメリカンポケットウォッチの中で、1850年代から1貫してそのブランドネームを守り、他の追随を許さなかったメーカーを挙げるとなればハワードの名を外すことはできない。

ハワードがアメリカのポケットウォッチのメーカーの中で高級品というブランドイメージを作り上げることができたのは1902年以前のオールドハワードの製作したモデルの力に負うところが大きい。

数々のメーカーが自社の特別なハイグレードなモデルを作りつつも、生産量の殆どを中級以下の普及品によって経営を維持したのだが、ハワードは1902年KEYSTONE WATCH CASE Co.に買収を余儀なくされるまで常にハイグレードなモデルの生産に傾注し、その他のグレードを顧みることはなかった。

オールドハワードのシリーズは1から12まであり、内7、8、11、12は 3/4スプリットプレートでシリーズ初期の1から3までは一定の設計のムーブメントではないが、それ以降のものは先に挙げたモデル以外3/4プレートである。

シリーズ1にはヘリカルヘアスプリング(ちょうちん髭)のディテントクロノメーター脱進機のムーブメントなどがあるが、これに限らずいずれもシリーズ初期のモデルは稀少である。

また、元々ハイグレードな仕上げを施すハワードではあるが、その中でもいくつかグレードを分けており、アジャストの表記も独特である。

一つはテンプ受けの下方に記す方法である。

何も記されていなければUNADJUST、”HEAT & COOL゛と記されていればADJUSTED TO TEMPERTURE(温度調整)、”ADJUST゛とあればFULLY ADJUST(温度調整及び姿勢調整)である。

いま一つの表記方法はムーブメントのプレート上に、ハウンド(犬)、ホース(馬)、ディアー(鹿)、の姿を刻印し、それぞれUNADJUST、温度調整、温度調整及び6姿勢を表すものである。

もちろんディアー(鹿)は少ない。

サイズについても他のアメリカポケットウォッチに共通するサイズとは微妙に違っている。  

シリ−ズ6以降のム−ヴメントはサイズに多少の違いはあっても3/4プレ−トであることは共通しており、あとは時代によって同じシリ−ズでも(シリ−ズによっては10年以上にわたって作られているものもある)真鍮のものとニッケルのものがある。

しかし同じ3/4プレ−トといっても細かい違いはある。

たとえばシリ−ズ4、5(初期の一部)はちょうどそれ以前のモデルとこれ以降のモデルの狭間に設計されたモデルらしく、髭ゼンマイを止めている髭持ちがテンプ受けではなく、プレ−トにとめられたスチ−ルの腕がテンプの上を越え髭ゼンマイを止めている。1870年代までのム−ヴメントの設計には良くみかけるもので、このデザインを好む人もいる。

いずれにせよ、オ−ルドハワ−ドはアメリカンポケットウオッチのトップブランドとしての貫祿と矜持を感じさせる名機のみを作った。

最も多いシリ−ズでも 27.000個であり、それも約30年間での合計である。そして1860〜1903年の間、オ−ルドハワ−ドが制作した総数は10万個余り、単純に平均しても一年間に2.500個強を制作しているに過ぎない。

買収されてからのハワ−ドは事実上はウオルサムの傘下企業になるが、ハワ−ドのブランドネ−ムはそれに恥じないム−ヴメントを作りだしている。

1930年の鉄道時計の規定で19石以上のム−ヴメントはすべて認定を受けている。

KEYSONE WATCHCASE CO.に買収されたハワ−ドは新たな道を歩む。

レイルロ−ドアプル−ブモデルのム−ヴメントの特徴を挙げると、ブリッジが細く輪列がよくみえることと、金枠ネジ止めをしないモデルが多いこと、石が大きいこと、ほか歯車をスチ−ルで制作しているモデルがあることである。

仕上げに関しては文句のいいようは無い。

キ−ストンハワ−ドは機種のグレ−ドをシリ−ズとブリッジ上に記した矢のマ−クで分けている。ポピュラ−なハイグレ−ド機種というと、シリ−ズ10が挙げられるだろう。このモデルは21石、ダブルロ−ラ−、ブレゲヘヤスプリング、5姿勢調整品である。鉄道時計として著名なモデルである。

シリ−ズ0は23石を使ったハイグレ−ドモデルだが、二種類あり、一つはバンキングピン(アンクルの振り棹を制御している2本の柱)をルビ−で作ったもの(ジュエルドバンキングピン)で、いま一つは香箱芯にルビ−を配したもの(ジュエルドバレル)である。

キ−ストンハワ−ドはこれ以外に、ある特別なモデルを制作している。

今日では一般のコレクターの手の届かないものだがブル−サファイアと呼ばれるモデルである。

23石真鍮のブリッジム−ヴメントでゴ−ルドトレイン(金製歯車)、石にサファイアを用いている。

しかもフリ−スプラング(緩急針のないテンプ受け、高精度完全調整品であることを示している)6姿勢調整なのである。

こうしたものをみると、確かにキ−スト−ンハワ−ドはミドルグレ−ドの時計も作り、オ−ルドハワ−ドよりははるかに多くの時計を生産をしてはいるが、決してブランドネ−ムを食い物にしていたわけではなく、新しい時代のハワ−ドを作ったと考えるべきであろう。

ム−ヴメント以外の違いとしては社名表記が,オ−ルドハワ−ドは文字盤ム−ヴメント共に“E.Howard & Co.,Boston”であり(ム−ヴメントの表記はプレ−ト上に筆記体で刻まれている)、キ−ストンハワ−ドは文字盤上には“Howard”ム−ヴメントのブリッジ上には “E.Howard Watch Co.Boston、U.S.A”と記している。

また、オ−ルドハワ−ドは自社でケ−スを作ることはなく、いくつかのケ−スメ−カ−に作らせていたが、キ−スト−ンハワ−ドは自社のオリジナルケ−スを製作している。

今回はハワ−ドを取り上げた。同じハワ−ドというメ−カ−名だが、事実上二つのメ−カ−であることを分かっていただけたと思う。例えるならば、オ−ルドハワ−ドのシリ−ズ5とキ−ストンハワ−ドの1930年代の17石を比較出来ないということである。

それは 1930年代の17石の品質が悪いということではない。実物を見て貰えばいい機械であることは一目瞭然であり、十分アメリカンポケットウオッチのブランドとしてのクオリティーの高さを感じさせてくれる。

しかし、オ−ルドハワ−ドがどうして特別なものとして語られ評価されるのか。

それはおそらくアメリカの時計製作の先駆者のハワ−ドが設立し試行錯誤を繰り返し、決して妥協する事なく作り上げた時計だからではないか。

機会があれば手にとって頂ければと思う。百聞は一見にしかずと言う言葉通り、ハワードの時計にはアメリカンポケットウオッチの貫祿と矜持が感じられるはずである。 



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