時計部品製作
これはかなり量産型の腕時計の「裏押さえ」と呼ばれる部品です。
最も一般的な機械式時計において、ゼンマイを巻き上げる→針を回して時刻を合わせる→再びゼンマイ巻上げの位置に戻す、という動作の際にはリュウズを引っ張り上げたり押し込んだりしますね。
20世紀に入ってから製造されたスイス製の量産機に関しては、この一連の動作において、「カチッ、カチッ」としたけじめ良い操作感をもたらし、誤作動を防止しているのは、この「裏押さえ」です。
(この他、この時計の場合、「カンヌキ」やそのスプリング、「日の裏車」「小鉄車」の脱落の防止も担っています)
それにしても、操作するたびにこの部品の「腕」のような形のバネ部分は激しく「しなる」ことになりますから、ある程度経年してくると大体は折れてしまいます。
画像では、まだ完全に離れてしまっていないものの、まさに亀裂が入って「破断する寸前」の状態が見て取れますね。
殆どの場合、裏押さえの腕の部分は本体と一体で出来ていますので、製作するためには全体を一体で削り出す事になります。
まず、焼きの入っていない状態の炭素鋼の板に形状をケガきます。
次に、所定の位置にネジの取り付け穴を開け、更にケガいた線に沿って糸鋸で切り取ってゆきます。
切り離した裏押さえを取り付け、正しく作動するかどうか確認します。
この時点では完全な仕上げはしていません。
正常な動作が確認できたら、裏押さえの表面や側面に「オリジナルの部品と同じ仕上げ」を入れます。
この時計の場合、面の仕上げは比較的ヘアーラインの残った「グレー」なものですから、製作した裏押さえも同様に仕上げます。
ちなみに、「もっと上級な仕上げを!」などと頑張ってしまうのは「時計屋のエゴ」以外の何物でもありません。
注)「顧客の希望」があった場合は別です。
完成した裏押さえを取り付けたところです。
「元と同じ」に仕上がっていますね。
構造的に、100年以上を経過した「アンティークウォッチの部品」のような耐久性は望めませんが、まだまだ当分は問題ないでしょう。