時計部品製作
アンティークのスイス製小型懐中時計の「4番車」です。
一見してそのカナ(中心軸と一体の歯車)や秒針の装着される下ホゾまで腐食が進んでいるのが分かりますね。
これをそのまま使えばカナと噛み合うお隣さん(3番車)の歯が駄目になってしまいます。
また「磨いて使え」というのも、、寸法が小さくなってしまって無茶な話。
100年以上前の時計の「交換用歯車・カナ一式」があれば苦労はありませんが、無銘のムーブメントで特別に背の高いカナが必要なこのような時計の場合、、、新規に製作する以外選択肢はありません。
まさに「トホホ」状態です。
先ずは「カシメ部分」を旋盤で切り取り、歯車からカナを外します。
それにしても、見事に腐食していますね。
既成の歯切りカッターに「ドンピシャ」のものがある場合はいいのですが、、、何100年もの間色々な場所で作られた時計が対象になるアンティークウォッチ修復の現場では、残念ながらそうはいきません。
実際には少々歯形が変わっても作動する歯車も多いのですが、「厳密にオリジナルと同じ歯形で」ということになると、カッターの製作が必要になります。
しかし、苦労して製作したカッターを将来再使用する機会があるかと言うと、、、悲しいことに、実際には殆どありません。
うーん、、、「トホホ」の2乗です。
、、気を取り直し、元の歯形と同じになるよう「生」の状態のカッターに加工を加え、その後「焼き入れ」「焼き戻し」の熱処理を施します。
完成したカッターは旋盤の「歯切り用アタッチメント」にセットし、カナの部材(生の鋼)はヘッドストックに固定します。
画像は製作したカッターが部材を削っているところです。
生の鋼にカナを切削し終えたところです。
この後、必要な長さを残して部材を切り落とします。
切り落としたカナとオリジナルのカナの比較です。
この時点では、まだ製作中のカナの方は生のままです。
「焼き入れ」「焼き戻し」の熱処理を加えたカナの様子です。
この後、研磨を加えて表面の酸化皮膜を落とします。
研磨が完了したカナは、再び旋盤に固定して「ホゾ」や歯車と合体するカシメの部分を切削・加工します。
すべての加工が済んだカナを歯車にカシメ付け、、、作業完了です。
やっとのことで、4番車が復活しました。
作動具合も極めてスムーズです。
めでたしめでたし。