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オルゴールの懐中時計

時計の話

NOTICE:This article written in Japanese.

(公開日: 2019/03/30)

今月、とても珍しい時計を修復した。

19世紀初頭のスイス製、オルゴール付きの懐中時計。


オルゴールの懐中時計
オルゴールの懐中時計
オルゴールの懐中時計
オルゴールの懐中時計

自動のスイッチをONにしておけば毎時正時が来るたび、つまり12時ちょうどとか1時ちょうどになるたびオルゴールが鳴り出してディスクが一周すると自動に止まるし、手動のスイッチを入れれば正時でなくてもいつでもオルゴールが作動する。

更にこの時計には 「1/4リピーター」 の機能もついているから、ペンダントを押し込めばいつでも鐘が鳴り、15分単位まで時刻を教えてもくれるように出来ている。

ここまで読んだ懐中時計ファンの中には、「なんだ、そんなの知ってるよ」 とか 「見たことあるよ」、中には 「俺も持ってるよ」 なんて方もいるかもしれない。

確かに古くからアンティークウォッチに親しんでいる方にとっては 「オルゴール付きの懐中時計」 は大騒ぎするほど珍しいものではないかもしれないし、類似のものはパスタイムでも過去に何点も販売している。

しかし今回の時計が珍しいのは、そのサイズなのだ。

今まで手を入れた類似の時計は、どれもベースは同じものだった。

大概はムーブメントの直径が5センチあまりの大型の時計なのだが、、、今回の個体は、ムーブメントの直径が約3センチ。

私が修理に使っているキズミ(ルーペ)より僅かに小さい、、もう少し分かりやすい例えで言うと、、、500円玉と変わらない大きさなのだ。


オルゴールの懐中時計
オルゴールの懐中時計
オルゴールの懐中時計

幸い時計は概ね良好な状態にあったが、、、細かく見れば200年選手の複雑時計だけに手当の必要な部分はそれなりにある。

特にゼンマイのロック装置である 「巻止め」 はオルゴール、時計本体ともに欠損していていくつかの構成部品を作り直すことになったし、後年の時計のように車軸の軸受けにルビーは使われていないから、軸受けの修理、車軸の研磨は必須。

更にオルゴールが始動するタイミングは正時から15分以上ズレていてその調整にも手が掛かり、完成してみれば半月ほどの時間が経っていた。

それにしても、設計者としてはこの小さな面積の中に全てを収納しなければならなくてさぞかし大変だったろう。

設計用のソフトウエアはおろか電気スタンドや計算機すらない時代に、よくぞその全てを成立させたと思う。

全体を大まかに分けると、、、時計本体の部品一式、リピーター機能の部品一式、更には、オルゴールの部品一式。

ゼンマイを収納する香箱も、それぞれに1つづつで合計3つ。

特に大きなパワーを必要とするオルゴール部分には大きな香箱が必要だし、オルゴールのディスクも場所を取る。

更に時計とリピーター、時計とオルゴールは全て連動しているから、その連結にも頭をひねったろう。

しかしなにより私が一番感心したのは、オルゴールのディスクと櫛歯の位置関係の精度。

ディスクには上下に無数のピンが埋め込んでありそのピンをはじく櫛歯も一本づつ先端が交互に上下に延びているのだが、、、これだけの極小ムーブメントであるのもかかわらずそのどれもが正確に位置決めされていて、今まで手掛けたどのオルゴール時計よりも曲調、音色が際だっていた。

恥ずかしながら音楽にも楽器にもオルゴールにも無知な私には、、、一体ディスクのどこにピンを立ててどの櫛歯で弾いたら然るべき曲が奏でられるのか、それをあらかじめどう計算して位置決めするのか全く知らないのだ。


オルゴールの懐中時計

人間とは本当に大したもんだ。

昔の時計をいじるたびに、つくづくそう思う。

ようやく迎えた納品の日。

完成した時計を前にそう言った私の言葉を、注文主のNさんは笑顔で聞いていた。



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