時計の話
NOTICE:This article written in Japanese.
先週からずっと、大変な難物の時計に掛かりっきりになっている。
19世紀初頭のイギリス製、フュジーbを搭載した鎖引きのデュープレックス脱進機の懐中時計。
ある方がドイツのオークションで落札し修復に持ち込まれた時計だが、かなりの重症。
200年から経った時計だからあちこち消耗しているのは想定内として、、、よりによって、肝心の脱進機周りがムチャクチャにいじり壊されているのだ。
製作しなければいけない部品はいくつかあるが、まずはレスティングストーンと呼ばれるパイプ状の部品から。
まずは、とは言ったが、、、実はこれが大変な難物。
直径は僅かに0.83ミリ、長さが1.2ミリの棒状のルビー。
そのルビーのど真ん中に直径0.3ミリの穴を貫通させ、その後で上から下まで▽状の切れ目を入れてやらなければいけない。
ちなみに現状はと言えば、、、真鍮で作った間に合わせのパイプが接着剤でくっつけてある。
この時計はドイツにあった筈だが、まあいい加減なことをする時計屋は世界中どこにでもいる訳だ。
幸いなことに、元になるルビーの材料は手元にあった。
直径1ミリ強のルビーの棒材。
段取りとしては、以下の通り。
① ルビーの真ん中に太さ0.3ミリ、深さ1.2ミリの穴を開ける。
② 開けた穴にピッタリはまる棒材を削り出し、パイプ状のルビーを固定する。
③ ルビーの固定された棒材を旋盤で回転させながらルビーの外径を削り、鏡面仕上げする。
④ 寸法通りに仕上がったルビーのパイプに、切れ目を入れる。
書いてしまえばこんな感じだが、、、まず①の穴開けは難易度が高い上時間が掛かるから、終始イライラとの闘い。
ご存知の方も多いと思うが、ルビーやサファイアはダイアモンドの次に硬度が高い鉱物だから、穴を開けろと言っても普通のドリルでは全く歯が立たない。
寸法が太ければ先端にダイアモンドの粉を電着させたドリルなんかが使えるが、、、0.3ミリの太さ、深さが1.2ミリのダイアモンドドリルとなると一本¥100,000以上する上、ちょっとした力の掛かり具合で簡単に 「ピーン」 と折れてしまう。
場合によっては2本のドリルを折って3本目で穴開け完了、ドリルの購入費用だけで30万円以上(涙)、などということになりかねないから、ここは古典的な手法で根気よくやるしかない。
残念ながら詳細は企業秘密(?)だが、、、要は先端が平らな金属のドリルを作り、そこにダイアモンドのペーストを塗りながら 「磨き抜く」 感じと言えばいいだろうか。
これは当然、時間が掛かる。
少しでも力を入れ過ぎればすぐにドリルの先端は変形してしまったりルビーに亀裂が入ったりするから、ゆっくりゆっくり、そーっとそーっと。
その間ずーと息を殺し顕微鏡を覗き込んで同じ動作を続けることになるから、、イライラすることこの上ないのだ。
結局、途中で何度か先細りになったドリルを仕上げ直したりしながら1.2ミリの深さに到達するまでに要した時間は、約6時間。
ここから外径の研磨、縁の面取り、、、そしていよいよ最も難しい 「溝切り」
コイツもなかなか高難易度な作業で、、、切れ込みが浅ければ歯車の先端が引っ掛かるし、かと言って深く切れ込めば切れ込みが穴まで到達してせっかく作ったルビーのパイプが切れてしまう。
切れ込みの形状に合わせて作ったカッターにダイアモンドのペーストを塗りながら何度か繰り返し切れ込み、、数時間後、ようやくレスティングストーンが完成。
しかしこの時点でヘロヘロ、、目もかすみ目、、、年かなぁ。
なんて言ってる場合じゃない。
この時計まだまだやらなければいけないことが目白押しなのだ!
次には複雑怪奇な形をしたガンギ車の製作。
こちらは現状、折れた歯の一本が真鍮のカケラとハンダで補修(?)してあり、、、全体にも歪みまくり。
とても再使用できる状態じゃないが、しかしこれを古典的な手法で作るとなるとレスティングストーンにも増して時間が掛かる上、難易度も更に高い。
いやはや、、、なんとも手強い時計だ。
「これ見てみー。 ひでーことするよなー」
ボロボロになった歯車を店の奥に見せにいくと、 「ああ、これならコイツで作っちゃいましょう」
フライス盤をいじっていた岩田から、頼もしい一言。
昨年末に導入した新型フライスのテストも兼ねてやってみるということになり、、疲れ切っていた私は大助かり。
さてさて、まだまだ続きそうなこの難物の修復作業。
歯車は手分けしてもらうことになったが、、一体どうなることやら。
次回も引き続き、この歯車の製作についてご紹介したい。