時計の話
NOTICE:This article written in Japanese.
前回、前々回とご紹介した難物の時計が、さっきようやっと完成した。
考えてみれば、手を着け始めたのは先月の末。
終わってみれば3週間ほどこの時計につききりになっていたことになるが、、歯車を製作した岩田、外装(ケース)を修復した辻本がいなかったら、それこそいつまでやっていたか分からなかったろう。
ルビーのレスティングストーン、そして特殊形状の歯車の製作。
この2つが今回の修復作業の中心にあったことは間違いないが、実際、それ以外にも必要な処置は山ほどあった。
擦り減った車軸、広がり切った軸受けの穴、その他歪んだ部品や改造品のネジ類等。
まあ200年も経てばある程度消耗するのは当たり前だし、それによって起こった不調を解消しようと色々な時計屋が思い思いに手を入れたことは想像に難くないのだが、、、ペースメーカーであるヒゲゼンマイを固定しているネジがこの時計より100年ほど後のスイス時計の「文字盤留めのネジ」に取り換えられていたのを見た時は、「どんだけ横着なんだよー」
一人思わず笑ってしまった。
もっとも完成したと言っても、時間が合う合わないはこれからの話し。
一般的な機械式時計と違って旧式で特殊な構造の時計ゆえ測定器で精度を測ることが出来ないから、これから毎日動かし続けて実測、調整を施すことにはなる。
実をいうと、一通り組み終えて作動試験に入ったのは昨夜遅くだった。
「よし! 終わったー!」
「チャカチャカチャカチャカ 」
心臓部分が新品になっただけあって、作動はすこぶる快調。
「よしよし。 このままイケるかなー」
そのままゼンマイを一杯まで巻き上げて店を閉め、、、そのまま駅前のハモニカ横丁へ。
「ご無沙汰ー」 「あ、マサさんしばらくー」 「あー、Sさんもしばらくですねー」 「Yちゃんも元気そうで!」
顔見知りとカウンターで一杯やっているうちに時計のことは頭から消え、、夜が更けにつれて穏やかな気分になってゆく。
大好きな時計いじりとは言え、四六時中考えたり心配したりしていては頭がもたない。
言い訳のようだけど、、、やっぱり気分転換は必要なのだ。
今朝はスッキリと目覚め、コーヒーを淹れてデッキで一服。
娘たちは既に学校に行っていた。
カミさんの作った弁当を受け取って電車に乗り店に着くと、、、作業台の上で 「チャカチャカチャカ」
時計は元気よく動いている。
「よしよし。 いいぞいいぞ。」
再びカギを取り出して、ゼンマイを巻き上げる。
「鎖引き」のこの時計は、構造上ゼンマイが強い。
だから力に耐えきれなくてチェーンが切れるリスクは常にあるし、チェーンが切れなくてもゼンマイが切れる可能性もある。
こればかりは構造上の問題だから回避できないが、、、巻かなきゃ何も始まらない。
チェーンを注視しながらゆっくりゆっくり、そーっとそーっと。
まあどんな巻き方をしても切れる時は切れるし、切れない時は何年経ってもも切れないのだが、、。
パチン。 ガシャッ !
「あっ、、。」
ゼンマイが切れた。
巻き上げ中のチェーンやゼンマイが切れる事故は 「年間に数回」 程度のことなのだが、、、こともあろうに散々苦労して出来上がったばかりのコイツでそれが出るとはツイてない。
まあ切れたのがチェーンの方じゃなかったのは、まだ不幸中の幸い。
それに持ち主に納品した後に切れるよりはましだからと気を取り直し、時計の分解開始。
その後ゼンマイの交換、組み直し、そして再び精度試験に入ったのは今日の夕方、つまり、ついさっき。
最初から最後までやたらと手の焼ける難物だったが、、、終わってみれば、何故か憎めない時計なのだった。