時計の話
NOTICE:This article written in Japanese.
いく度か途中経過をご紹介した 「透かし彫りのカスタム懐中時計」 が、ようやっと完成した。
ご注文をいただいたのは暑い夏の盛りだったが、、、エングレイバーの辻本がムーブメントを彫り終え、ケースの製作と時計のレストアを担当した岩田が仕事を終えたのが今週初め。
気がつけば季節は完全に移り変わり、コートの襟を立てて歩く季節になっていた訳だ。
それはさておき、完成した時計の仕様を改めて見直してみる。
ベースになったのは、19世紀末のスイス製ニッケルムーブメント。
ムーブメントには銘が無いが、「J.J.Badollet & Co」 が製作し、ニューヨークのジュエラー 「T.Dean Hawley」 が販売した時計であることが分っている。
ムーブメント径は約43ミリのフルサイズ、アメリカ規格の18サイズ相当。
「4/3」 タイプの受け板は充分な厚みのある頑丈なムーブメントで、、、これだけ広範囲に彫り抜いても、強度的は不安は微塵もないものだ。
製作したケースの材質は、スターリングシルバー。
加工前の材料は、金属材料メーカーに特注した 「継ぎ目のないドーナッツ状」 の3つの銀塊である。
この材料は 「調達コスト」 の面でかなり難があるのだが、、、銀の角棒をリング状に曲げてロウ付けした場合と異なり、加工後のケースに 「ロウ目」 が出ることがない。
そんな訳でコストの面には目を瞑り、うちの 「カスタム腕時計のケース」 にも広く使用している材料だ。
さて、用意された銀塊は、岩田の設計・プログラミングにより 「ベゼル」 「センター」 「バック」 とNCフライスが削り出しつつ、同時にネジ切り加工する。
こうして出来上がったケースパーツは次に辻本の手に渡り、、、旋盤やヤスリ細工によって 「ペンダント部分」 が製作され、これがケースにロウ付けされる。
ちなみに、この時計の提げ環(紐やチェーンを取り付ける輪)には 「そろばん玉のような鍔」 が2つ付けられているが、これはチェーンや組紐がポケットの中でリューズに巻きつくのを防ぐ為の工夫で、19世紀末頃のアンティークポケットウォッチにも見られる仕様だ。
一通り形になったケースは充分に研磨・洗浄され、これに今回注文主の希望で外注した 「途方も無く高価な特大サファイアクリスタル」 を両面に取り付けて、、、ケースの出来上がり。
更にこれがムーブメントのレストアにあたっていた岩田に渡され、ムーブメントをケーシングして全て完了。
こうして4ヶ月に渡った 「透かし彫りムーブメントのカスタム懐中時計」 のロングプロジェクトは無事完了。
そして今日の昼過ぎ、、、晴れてオーナーのポケットに収まったのだ。