修理・レストア
イギリスのBARRAUD&LUNDSのクロノメーター懐中時計です。
BARRAUD&LUNDSはポール・フィリップ・バローとジョン・リチャード・ルンドが経営していた19世紀のイギリスロンドンを代表する時計製造会社の1つです。
分解されて歯車やフュジーを取り除かれた地板です。
イギリス時計の典型的なギルト仕上げのムーブメントです。
これは、真鍮の板材に水銀で溶かした金を乗せた後に火の中に入れ、水銀を蒸発させて金だけを付着させるという工法で、ファイアーギルトとも呼ばれます。電気的なメッキと比較して耐久性に優れているのが特徴ですが、蒸発する水銀を吸うと大変危険な為今日では一部の金工師のみによって行われているようです。
フュジーの主な構成パーツです。
フュジーはゼンマイのトルク変動を是正して歯車に伝える役目をした歯車です。
画像左に見えるのが鋼の動力維持装置(通称ハリソンスプリング)を内包した歯車、右上が1対の逆転防止用クリックとそのテンションスプリングの付属したフュジークリック用ラチェット歯車、その隣が逆転防止クリックと噛み合うラチェット型歯車を内包したフュジーの螺旋部分です。
フュジーの表側です。
上部中央の角型のシャフトはゼンマイを巻き上げる際に鍵を差し込んで回す部分です。
非常に丁寧な仕上げが施されたガンギ車です。ホゾ、カナは鏡面仕上げです。
地板に一通りの部品をセットした状態です。
フュジー上面のスティールパーツの尖った爪状の部分はストップワーク(巻上げ停止機能)のツメで、ゼンマイの巻上げ動作によってフュジーの最上段まで鎖が巻きつけられると、受け板の裏側に取り付けられたストップレバーの先端とこのツメが衝突して強制的に巻上げを停止させる仕組みになっています。
スプリングディテントです。
非常に繊細な作りで当時の職人の技術力の高さが窺い知れます。
受け板の裏側です。
受け板中央に見えるルビーは天真下ホゾの穴石、伏石です。(穴石は伏石に隠れて見えません。)
また、受け板の6時位置に青焼きの平たいストップレバーと8時位置くらいから細長く伸びるテンションスプリングが見えます。
ゼンマイを巻き上げるうちにフュジーの上段に巻きついていった鎖がこのストップレバーを段々と上に押し上げてゆき、最終段まで巻きついたところでレバーの先端とフュジー上部のツメと衝突→巻き上げ完了となります。
青焼きのレバーの中ほどに青焼きのはげた白っぽい一本の線が横切って見えますが、ここがチェーンの当たるところです。
フュジーのチェーンです。
たまに切れてしまうことがありますが、その場合は繋ぎ直すことが可能です(修理・整備例のフュジーチェーン修理ご参照下さい)
全体に錆がひどかったり折れ曲がっていたりする場合は一箇所を繋いでもまたすぐに別の部分が切れますので、状態の良いチェーンと交換する方が現実的です。
受け板をセットしました。
このクロノメーターのテンプの天真はネジ止めの仕様です。テンワ、天真、振り座の中心が少しでも狂ってしまうと精度が出なくなります。
振り座とセットになっている天真をネジ止めしました。イギリス製のクロノメーターのテンプはどれも存在感のあるものばかりです。
テンワの裏側です。振り座の小さい石はパッシングスプリングによるガンギの拘束を解除するアンロッキングストーン(unlocking stone)です。
ヘリカルヘアスプリング(提灯ヒゲ)です。
テンプ受けを装着しムーブメントの組み立てが完成しました。
テンプの伏せ石は青焼きのシャトンに包まれたローズカットダイアモンドのネジ止め仕様です。
文字盤、針をセットしてケースに組み込んで完成です。