修理・レストア
18世紀に製造されたバージ式懐中時計のピラー(柱)です。
良く見ると、受け板の上でクサビ止めしてあるピラーの先端部分に亀裂が入っています。
かなり強い力でクサビを抜き差しする仕様なので、長年の間に割れてしまったのですね。
ムーブメントを地板単体にしたところです。
クサビの力に負けて、穴から上が割れてしまっているのが良く分かります。
ピラー全体を作る方法もありますが、割れてしまったピラー先端のみ削り取って修理しても充分な強度が保てます。
この場合、全体を作り直す方法と比較して、オリジナルのピラー本体の大半が温存でき、また修理費用もオーナーにとって格段に負担の少ないものになる、というメリットがあります。
まず、ピラーの先端をクサビの穴の下から一旦綺麗に削り取ります。
次に切り取ったピラーの断面に穴を開けます。
穴が小さすぎればこの後ねじ入れるピラー先端のネジ部分が折れやすくなりますし、大きすぎれば土台の方に亀裂が入ってしまいますから注意が必要です。
また開ける穴は、ピラーに対して限りなく垂直に近い物でなければならないことは言うまでもありません。
開けた穴に「雌ネジ」を切ります。
結構力の掛かる所ですので、ねじ山はしっかりとしたものでなければなりません。
ピラーに雌ネジを切ったら、今度は旋盤でピラーの先端部分を作ります。
ピラー先端の下部には雌ネジにネジ入れるための「雄ネジ」を切っています。
力のかかるところである上、今後取り外すことの無い部分ですから、通常よりも寸法を幾分きつめのネジにして、慎重にピラーにネジ入れていきます。
ガッチリとねじ込まれたピラーの先端です。
雌ネジも雄ネジも垂直に出来ている場合、製作した先端部分とピラーの間に「継ぎ目」は見えません。
この時点ではまだクサビ止め用の穴は開いていないのが分かります。
クサビ止め用の穴を開けました。
受け板を取り付けてクサビ止めした時に、ちょうどクサビが受け板を押さえ込むような高さに穴を開けなければなりません。
受け板を取り付け、クサビ止めしたところです。
他のピラーと同形状ですが、作り立てなため輝いていますね。
しかし、わざわざ酸化させたりして「古色を付けなくても」、時が経てば真鍮は直にくすんだ色合いに落ち着いてきます。