時計部品製作
鎖引きのバージ式懐中時計のワームギアです。
画面中央に見える大雑把なネジのような部品がワームギアで、左右にある非対称の青焼きの部品はワームギアを支えているブラケットです。
ワームギアはバージ式懐中時計の中でも比較的初期のものに多く採用された機構で、18世紀半ば以後の時計にはあまり見られません。
ヘリカルギア(ヘリカルギア製作の項ご参照下さい)とのコンビネーションにより、鎖引き時計組み立て時のゼンマイ初期トルクを任意の力に調整できるようになっています。
このワームギアは歯の一部が欠け落ちてしまっていますので、ちょうど良いトルクのところにくるとヘリカルギアとの噛み合いが外れ、香箱に巻きついたチェーンもテンションを失って外れてしまいます。
ワームギアを地板上のブラケットから外し、単体にして観察したところです。
ワームの歯が2箇所欠けているのが見えますね。
あらかじめ先端をオリジナルと同寸法の角柱に加工した炭素鋼(鋼)の棒を旋盤にセットし、必要な寸法に切削・加工してゆきます。
この時点ではまだ焼きは入っていない状態です。
手でゆっくりと旋盤を回転させながら、オリジナルのワームと同形状の螺旋を切ってゆきます。
どちらかと言うと、「歯」と言うよりは螺旋の「ネジ」に近い物ですね。
全ての加工が完了したら、「焼き入れ・焼き戻し」をして必要な硬度に設定し、完成です。
オリジナルのブラケットに挿入し、ブラケットを地板にネジ止めしたところです。
組み立て後、香箱の下でヘリカルギアと噛み合ったワームギアの様子です。
ワームギアの先端の角柱部分にカギを刺して回す事により、ヘリカルギアが回り、香箱芯が回り、必要な分だけゼンマイを巻いて鎖にテンションを掛ける仕組みです。
「ヘリカルギアの製作」の項でも述べましたが、ワームギアはムーブメントの組み立て時にゼンマイの初期トルク設定する時だけ作動させる部品ですから、このワームギアを再び製作することがあるとすれば、それはおそらく100年以上後のことでしょう。