エングレービング
今回ご紹介するのは当店でご注文頂いた特注デザインのギョーシェダイアルです。
あるお客様からのご依頼で
「西洋風、伝統的でありながらも特別なダイアル」
とご注文頂きまして出来上がったのが左のデザイン図。
ローマ数字表記をベースに7時位置にオーナー名を被せた仕様。
中央には伝統的なギョーシェ模様のグレンドルジュ(デザイン図上ではフランケ模様ですが製作時に変更)。
ギョーシェ外周部に手彫りのアラベスク模様。
12、3、6、9時位置に18Kゴールドインレイ。
裏面に製作者、製作ナンバーの手彫り。
上記の仕様を織り込んだ特注ダイアルを「Tiffanyムーブメント」に搭載し、当店の0サイズ防水シルバーケースにケーシング。
更に18K防水リュウズを「飾りイニシャル」を刻んで製作。
文字盤にスポットを当てた内容ですが制作期間、二週間近くを要する工程をご紹介していきます。
先ずはシルバー925素材の丸板にリング材をロウ付け。
スイスの高級機によく見られる「キャップ式文字盤」仕様なので、ムーブメントに圧入固定されるリング部を予め大きくロウ付けしておきます。
この文字盤の厚みは0.8mmなのですが、ロウ付け時の高熱の影響、片側だけ全面的に施される彫刻の作用を考えると最後まで歪みとの戦いです。
少しでも厚いと針やベゼルが文字盤に触れたり、歪みがあると均一な模様が施せなかったり…
「精度」に神経を使いながら製作していきます。
製作者のサインと製作ナンバーの刻み。
旋盤で前後面を整えムーブメントに固定される形状に加工後、裏面に文字を手彫りで刻んでいきます。
当店エングレーバーの辻本の銘と「051」の製作ナンバー。
ローマ数字 インデックスドットの彫り。
顕微鏡を覗きながら各数字、インデックスを刻んでいきます。
後ほど12、3、6、9時位置にゴールドのドットが圧入されるのでこの位置だけは裏面まで穴を貫通させます。
アラベスク模様手彫り。
普段はムーブメントに刻むことの多いアラベスク模様ですが今回はダイアル中央部に彫ります。
ギョーシェ模様との共存の為、精度に気を使いながら刻んでいきます。
ギョーシェ模様彫り。
手彫りの作業を終えると今度は「ローズエンジン」の出番です。
伝統的なパターンであるグレンドルジュを、顕微鏡を覗きながら中央、外周、各部位のキワに刻んでいきます。
スモールセコンド位置の穴あけ。
ギョーシェ模様の工程を終えると今度は旋盤に固定して秒針窓の穴あけです。
後から嵌めこまれるスモールセコンドの大きさまでムーブメント4番車軸に合わせて彫り貫いていきます。
マッドトーン加工。
ダイアル全体に熱処理を繰り返すことで艶の無い白色のトーンに加工します。
この白地、少しでも触れると銀の艶が下から出てしまうので、この加工から先は文字盤の前面には一切触れず進めなければなりません。
数字部、インデックス部の研磨。
外周、中央部は一切触れす数字、インデックスサークルを研磨していきます。
これにより白色のマット仕上げと光沢のあるヘアーライン仕上げのコントラストが生まれます。
黒入れ。
ギョーシェダイアルの文字には伝統的に「インディアンインク」の黒が入ります。
発色と固着性の良い素材で文字盤全体が締まります。
スモールセコンドの製作。
ダイアル製作もここまで来ると終盤に入りますが、まだまだ気の抜けぬ作業が続きます。
ダイアルメイン部と同じ工程でスモールセコンド製作します。
ギョーシェ模様のパターンは「フランケ」。
スモールセコンドの圧入。
完成したスモールセコンドをダイアルに嵌め込みます。
高精度に貫いた穴なのでしっかりと嵌まれば抜けることはありません。
圧入時は文字盤前面に一切触れずに力を加えて嵌め込むので、かなりの注意が必要です。
18Kゴールドインレイ。
いよいよ最終工程です。
いよいよ一番危険な工程です…
予め貫通させておいた4箇所の穴に、旋盤で切削した18金無垢のピンを叩き入れていきます。
この時点でピンが曲がったり、ダイアルに傷を入れたり、白色部に触れたり…
考えるだけで冷や汗の止まらない工程ですが、ピンを叩いていきます。
完成。
無事にインレイの作業を終えてダイアルの完成です。
18金無垢 防水リュウズ
量産品は通常、金型やローレットで作られていますが一点物のこのリュウズは歯車を作るときと同様「歯切り」して製作しました。
トップに飾り文字の「E」を刻み余白部はニードルで無数の点刻を施した拘りのリュウズです。
この後ムーブメントの整備を終えてケーシングされ完成となります。
中央部に主張の強い模様を刻むことで、バランスが偏りそうな気がしますが白色のマッドトーンにより模様が邪魔すること無く時間の視認を可能としました。
角度を変えることでアラベスク、ギョーシェの細やかな彫刻表情をお楽しみ頂けます。
オリジナルダイアルに合わせた寸法で製作してあるのでケースの入れ替えで懐中時計としても使用可能です。
最後までご覧頂きありがとうございました。
※以下、完成写真です。 記事担当 辻本