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「時計のお国柄」

NOTICE:This article written in Japanese.

(公開日: 2011/09/29)
アメリカ製、ウォルサム・リバーサイドマキシマ 1901年製
ウォルサム・リバーサイドマキシマ 香箱のサファイアベアリング
ウォルサム・リバーサイドマキシマ ゴールドトレイン輪列
スイス製 パテックフィリップ 1900年製
パテックフィリップ懐中時計 アンクル表側
パテックフィリップ懐中時計 アンクル裏側
フランス製 ルロア 1915年頃
ドイツ製 ランゲ&ゾーネ 1893年製
ランゲ・テンプ ミーンタイムスクリュー雌ネジ部分のスリット
ランゲ・テンプ ミーンタイムスクリュー雌ネジ部分のスリット
イギリス製 チャールズフロッシャム 1880年製
イギリス・イングリッシュレバー テンプ一式上側
イギリス・イングリッシュレバー テンプ一式裏側
イギリス・イングリッシュレバー テンプ一式上側(最初の2枚と別のもの)
イギリス・イングリッシュレバー テンプ一式裏側(最初の2枚と別のもの)
イングリッシュレバー ラチェット型ガンギ車・レバー
シラック

こんにちは。 パスタイムの中島です。

今回は、アンティークウォッチの「お国柄」のお話しです。

一部の例外を除いて「殆どスイス一辺倒」と言ってよい腕時計の蒐集と異なり、、、アンティークの懐中時計は長い歴史において様々な国で製造されたものが対象になります。

そして、同じ時代の時計でも製造国によってそれぞれの特徴があるので、、、、コレクターによっては「私はアメリカがいい」「何といってもスイス製だ」「やっぱり英国製に限る」はたまた「フランス製でないとエレガントでないザマスよ。ウィ。」などとなる訳ですね。

さて、ここでは実際に各国で製造された時計がどのように違うのか、パスタイムの店頭にある時計で比較してみましょう。

まず、アメリカ製のウォルサム(リバーサイドマキシマ)をご覧下さい。

他国のものと比較して明らかに特徴的なのは、その受け板上にある紋様(通称ダマスキーン)です。

これはシリア・ダマスカスの名産品である彫り紋様の金属細工に由来する呼び名のようで、ウォルサムに限らずアメリカの各社はそれぞれモデルごとに特徴のあるパターンを考案しています。

特に鉄道時計を中心とした当時のアメリカ製の時計は、それぞれのメーカーが、その「性能」で他社との差をつけるのが大変難しいレベルにまで到達していたこともあり、「見た目の豪華さ」は重要なアピールポイントと考えられていたようです。

これは受け板の「ダマスキーン」以外の部分でも同様で、2〜4番の歯車を「ゴールドトレイン」にしてみたり、穴石や伏せ石のルビーのシャトンをゴールドにしてみたり、、、、更には殆どの中級以上のムーブメントでは地板・受け板にニッケル(厳密には洋銀または洋白)の無垢材を使用し、ギンギンにゴージャスな仕様になっています。

また、このマキシマに関しては、香箱の内部のベアリングとして2石のサファイアを使っているのですが、これも他国のものには見られない贅沢な仕様です。

反面、この時代のアメリカ時計は他国の高級時計で採用されている「巻止め」を採用していないのですが、この辺は「設計思想の違い」というところでしょうか。

※極めて初期のアメリカ時計の一部、及び「E・Howard(オールドハワード)」の時計には「巻止め」が採用されています。

アメリカ時計の機械的な性格としては、一言でいうと「高性能な工作機械による高精度な量産型」ということになり、同時代のヨーロッパのものと比較するとかなり「均一で規格的な製造方法」が採られています。

当時のアメリカの技術者の目指すものは「Interchangable(互換性のある)部品の製造」であり、事実、完全ではないにしろ基本的には同時代・同モデルのムーブメントにおいては、ある程度「部品の乗せ替え」が可能なものになっています。

また、殆どのアメリカ時計同様、このマキシマのk14ケースにはどこを見ても「ウォルサム ウォッチカンパニー」の商標はありません。

何故ならアメリカの時計メーカーはムーブメントのみ製造し、ケースの製造・販売は外部の独立したケースメーカーがそれぞれ行っていたからです。

これは今日における「OEM」や「下請け」とは異なり、例えば当時の販売店のカタログを見ると、16サイズのマキシマのムーブメントは幾ら、ケースはJ.Boss製のK14で幾ら、金張りで幾ら、などというように購入者がケースを自由に選択して購入するシステムになっています。

また、仮に「16サイズ」と言えば、ウォルサムもエルジンもイリノイも同じ規格で製造され、基本的には「16サイズ」のケースであればどのムーブメントでもケーシングできるように足並みを揃えていた訳ですね。

したがって、殆どの他国の時計のような「メーカー純正ケース」というものは始めから存在しないことになりますし、そのうちケースを交換したくなったら「いいケースに入れ替えようっと」という事が可能な訳です。

(※一部の特別モデルを除く)

このシステムもそれまでの他国の時計には見られない特徴で、いかにもアメリカらしい、「合理的な発想」と言えますね。

結局のところアメリカ時計を一言で表すと、製造の合理化・効率化を図りながらも、材質的には「最もお金を掛けた時計」ということになりますが、ウォルサムのごく一部のモデルを除いて「複雑時計」は製造していません。

次にスイスにいきましょう。

写真にあるのは、高級スイス製時計の代名詞のようなパテックフィリップの時計です。

いかにもスイス製の時計らしいブリッジ型の受け板ですね。

また、写真では見えませんが、角穴車を香箱受けとその受け板で挟みこんだ造りになっているのもスイスの高級機の定番的仕様です。

※注)平均的なスイス時計の多く、または一部の高級品にも角穴・丸穴車が香箱受けの上部に配置されているものはありますので、絶対的な条件ではありません。

スイスの時計作りにおける特徴は、何といってもその「分業システム」にありますが、これは後述するフランスとも共通しています。

ムーブメントの全てを自社で独自に製作するアメリカと異なり、スイスの場合は「エボーシュ」と呼ばれる仕上げ前のムーブメントを製造・供給するエボーシュメーカー、その他、アンクルや、歯車などといった各部品を専門に製造する部品メーカーから文字盤、針等の外装メーカーまで多数存在し、最終的に時計を仕上げて販売するメーカーは基本的にあちこちから部品を仕入れて組み立てる仕組みになっています。

パテックフィリップのアンクルと全く同一のものが同時代の他メーカーのものに見られたりするのはこういった訳で、、、スイス時計をいじっているとこういった例は数限りなく目にすることになります。

また、例えば全く同一の設計・仕上がりのムーブメントが、片や「Agassiz」銘、片や「Touchon」銘で見つかり、どちらも地板の文字盤の下側には「Wittnauer & Co」の刻印があったりして、、、その流通の形態も極めて複雑で、実際には「どこの誰が作った」と言えないものが多いわけですね。

余談ですが、つい先日もスイスの某高級時計メーカーの時計師が来店した際にその話しになったのですが、彼も「あまりにも関係が複雑で、誰がどこの誰からパーツを買って誰が仕上げていたのか、とにかく分からないことだらけ」という話しをしていました。

いずれにしても、スイス時計のグレードは、元々のエボーシュの設計の良否、それから各部品の工作精度、それから勿論「Finisher」と呼ばれる最終的な仕上げ・組み立て、及び調整を施す人間の腕によって大きく違ってくるので、、、、明らかに同じエボーシュを使用したムーブメントでも全く違ったグレードのものがあったりする訳ですね。

実際、良くも悪くも「職人の手によって作られている」スイスの時計はそのグレードに大きな幅があり、「何だよ、これー。ヤスリ掛けしくじってんジャン!」と言いたくなるようなアンクルやら、明らかに新品の時から不調があった筈の「楕円形の歯車」を持った時計があるかと思えば、、、トップグレードの高級品のように 「ようやるわ、全く」 とあきれるほど厳密に仕上げてあるものまで実にまちまちなのです。

そういう意味では「最もお金を掛けた時計」であるアメリカ時計に対して、スイス時計は「より手を掛けた時計」であると言えるでしょう。

また、ご存知の通り、スイスは各種の「複雑時計」を最も多く製造した国でもあります。

さて、フランスですが、、、ブレゲやルロアを始めとする天才達が腕を競っていた19世紀初頭までは別として、この年代のフランスの時計はその特徴もスイスと非常に近いものです。

この写真の「ルロア」は、通称「ギョウムテンプ」を搭載し、「ブサンソン」の天文台コンクールに高得点を獲得した特別な時計ですが、実はこのムーブメントはあるスイス製の「エボーシュ」を仕上げたものです。

※ 同じエボーシュはパテックフィリップ他のスイスメーカーでも使用され、天文台コンクールに出品されています(ニッケル仕様)。

強いて特徴があるとすれば、、、圧倒的多数のスイスの高級機やアメリカ製中級〜高級機が「ニッケルムーブメント」を採用したのに対し、大多数のフランスムーブメントには後述するイギリス時計同様、金色の「真鍮にギルト仕上げ」が好んで採用されている点。

それからどう言う訳か、相当な高級品でも「スワンネック」等のマイクロレギュレターを装備していないものが圧倒的に多い、という点でしょうか。

何しろ最も微妙な歩度調整を必要とする「天文台コンクール出展品」でさえマイクロレギュレターが無いわけですから、不思議と言えば不思議なのですが、、、やっぱりおフランスではすっきりしていないと「エレガントでないザマス」ということだったのでしょうか?

いずれにしてもフランス時計は、19世紀の半ばから20世紀に掛けての「アンクル式全盛時代」に関して言えば、絶対数はかなり少ない時計になりますが、一部「複雑機能」を搭載した時計も作っています。

ランゲを始めとしたドイツの時計も、かなりスイスと似た性格を持っています。

まあ、フランス同様、スイスと国が接している訳ですから当たり前と言えば当たり前ですが、、、しかし、スイスの多くに見られる「ブリッジ型」のムーブメントではなく、いわゆる3/4プレートのものが主流です。

また、スイスの高級ラインに多い「角穴車を香箱受けと歯車の受けで挟みつける方式」のものはなく、角穴車や丸穴車は香箱受けの上に位置します。

ちなみに写真の時計はランゲのA-1グレード(最上級)のものですが、「一般グレード」のものでもデザイン的には大体同様です。

地板や受け板は「ギルトムーブメント」「ニッケルムーブメント」両方ありますが、「一般グレード」のものが全てギルトムーブメントであるのに対して「高級グレード」のものはギルト・ニッケル両方あります。

「ランゲ」や「アズマン」の高級仕様に関しては、この時計のようにガンギ・アンクルが金(ピンクゴールド)で作られていることが大きな特徴でしょうか。

また、少々マニアックですが、これら高級ラインのテンプには「ミーンタイムスクリュー」のねじ込まれる部分に限ってスリットが入っており、調整のために繰り返しネジを入れたり出したりしてもミーンタイムスクリューのネジが「バカにならない」よう工夫がなされています。

※一部のアメリカやスイスの高級機、または多くのイギリス製の時計に搭載されているミーンタイムスクリューは、テンプのネジ穴に対してきつめの雄ネジになっているだけであるためテンションが緩くなり、調整したい位置で固定出来なくなっているものが多いのです。

言葉で言うと簡単ですが、このスリット、顕微鏡写真でもなかなか分からないほど狭い切れ目で、、、照明にかざしても殆ど光が漏れてこないほど微細な隙間です。

これは他のどの国の時計にも見たことの無いもので(少なくとも私はありません)、120年も前にどのようにしてこのスリットをバイメタルテンプに切っていたのか、、、情け無いことに、どう考えても思いつきません。

ここまで細かい点にこだわった時計作りには本当に敬服すべきですが、、、そうかと思うと、角穴車の固定方式(香箱芯の角柱上部の切れ込みに横から半月状のネジの頭が滑り込む)などは極めて不安定かつ壊れやすいものですから、、、やはり時計には、多少なりともそれぞれに良い所、悪いところがあり、「全てがベスト」というものは存在しない訳です。

フランス時計同様、ドイツの時計も絶対数は少なめですが、ランゲやアズマンでは創立当初からリピーター等の素晴らしいクオリティーの「複雑時計」を作っています。

さてさて、最後に大英帝国の時計です。

これは一言で言うと、頑固一徹、まるで「巨人の星」の星 飛馬の父親のような性格の時計です。

理由は定かではありません。

しかし、とにかく白いニッケルムーブメントは嫌いなようです。

全てのムーブメントは「真鍮にギルト」と決まっており、、、「何で?」などと聞いてはいけません。

そんなことをしようもんなら「アンショウ」や「グラハム」や「ハリソン」や「デント」や「フロッシャム」や、、、きりが無いので止めますが、とにかく名だたる大御所が、ちゃぶ台をひっくり返してしまいそうです。

写真のフロッシャムは1880年に製造されたもので、既に普通のゴーイングバレルを採用したものですが、物によってはこの時代でもまだ鎖引きの「フュジー」を採用したものもあります(当コラム・「フュジー」についてご参照下さい)

パッと見たところ、、、殆ど歯車が見えません。

「何で?」、、と聞くのは野暮というもんです。

凄まじく真面目に仕上げられた歯車、有り得ないほど完全無欠に鏡面研磨されたカナ、、、そういった部品を丸見えにしないのが「英国風」なのです。

唯一大半が露出している「テンプ」の作りは、、、、完璧です。

ミーンタイムスクリューを含めた金のチラネジ、テンプのアーム等も鬼のように仕上がっていて、、こんな仕事をする職人を親方に持ったら大変です。

同じ「徹底的に仕上げる」でも、それぞれのパーツの角を「大きく曲線的に面取りする」スイスはじめ他国の仕上げ方とは異なり、、、平面であるべきところは限りなく完全な平面でピカピカの鏡面に、そして面取りの断面も、基本的には曲面ではなく平面に仕上げるのが英国風です。。

実際のところ、これは見た目以上に実践するのが難しい手法で、、、例えばうちではスイス風の仕上げであればパテッククラスのスティールパーツでも「オリジナルと判別の付かない仕上がり」にすることが可能ですが、、、イギリス時計のスティールパーツを「完全に」となると「長時間ヒーヒー」言いながら仕上げ直した挙句、本当に厳密には「ちょっと違うかなー」ということになるほどです。

その他、イギリス時計において特徴的な点は、5番車(ガンギ車)とレバー(アンクルではありません)の形状が他国のものと異なることでしょうか。

これは「イングリッシュレバー」と呼ばれるもので、一般的なクラブトゥース型のガンギ車の歯先がゴルフクラブもしくは長靴のような形状をしているのに対し、イングリッシュレバーにおいては先端まで尖った「ラチェット形」をしています。

また、大半のクラブトゥース型のレバー(アンクル)が錨型をしているのに対して、イングリッシュレバーのレバーは横向きの形状になっています。

とはいえ、これらはどちらも原理的には同じものですし、脱進機の分類としては双方ともあくまでも「レバー式脱進機」に属するものです。

実際このイングリッシュレバーのガンギ車を見ると「こんな尖がった細い歯先でひん曲がんないかなー。しかも鋼じゃなくて真鍮だしなー」と心配になるのですが、、、不思議とレストアの現場において「歯先の磨耗や変形または欠損」が問題になるケースはそれほど多くありません。

(※時計師によって人為的に壊されているものは別です、念の為)

実際のところ、これは見た目以上に実践するのが難しい手法で、、、例えばうちではスイス風の仕上げであればパテッククラスのスティールパーツでも「オリジナルと判別の付かない仕上がり」にすることが可能ですが、、、イギリス時計のスティールパーツを「完全に」となると「長時間ヒーヒー」言いながら仕上げ直した挙句、本当に厳密には「ちょっと違うかなー」ということになるほどです。

その他、イギリス時計において特徴的な点は、5番車(ガンギ車)とレバー(アンクルではありません)の形状が他国のものと異なることでしょうか。

これは「イングリッシュレバー」と呼ばれるもので、一般的なクラブトゥース型のガンギ車の歯先がゴルフクラブもしくは長靴のような形状をしているのに対し、イングリッシュレバーにおいては先端まで尖った「ラチェット形」をしています。

また、大半のクラブトゥース型のレバー(アンクル)が錨型をしているのに対して、イングリッシュレバーのレバーは横向きの形状になっています。

とはいえ、これらはどちらも原理的には同じものですし、脱進機の分類としては双方ともあくまでも「レバー式脱進機」に属するものです。

実際このイングリッシュレバーのガンギ車を見ると「こんな尖がった細い歯先でひん曲がんないかなー。しかも鋼じゃなくて真鍮だしなー」と心配になるのですが、、、不思議とレストアの現場において「歯先の磨耗や変形または欠損」が問題になるケースはそれほど多くありません。

(※時計師によって人為的に壊されているものは別です、念の為)

また、イングリッシュレバーの場合、レバーの「ツメ石」はレバーの製造時に鋼の本体にガッチリ圧入された上で本体と「ツラ」の面まで研磨されていますので、アンクル式のツメ石のようにツメ石を動かして「ガンギ車との食い合い」を調整することが出来ません。

言わば「食い合い」は、製造された時点で調整されてそのままということになりますし、通常は「ツメ石を交換する」事も出来ませんが、、どういう訳かイングリッシュレバーの時計においては、アンクル式の時計において頻繁に見られる「ツメ石の欠損や磨耗」に遭遇することが殆どありません。

もっとも、ツメ石の「磨耗」は別として、「破損」の方の原因の大半は、修理屋の「いじり壊し」にありますから、、、そういう意味では「いじりたくてもいじれない」イングリッシュレバーにおいてツメ石の欠損が少ないのは当然なのかもしれません。

※ちなみに、多くの時計師が不必要にアンクルのツメ石をいじる理由の大半は、「ガンギ車やアンクルの軸の磨耗」にあります。

つまり、元々は定期的な整備をせずに時計を動かす「持ち主」に責任がある訳ですね。

一度これらが磨耗すると、それぞれの軸は穴石の中で大きく「遊ぶ」ことになり、結果的にガンギ車の歯先とアンクルのツメ石との距離が離れる現象が起こり、元々必要最小限に噛み合っているガンギの歯先とアンクルのツメ石が「噛み合い損なう」ことになります。

もっともこれは、磨耗したそれぞれの軸を「元通りの寸法のものに製作・交換」すれば何の問題も無く完全に復旧する理屈ですが、、、「職人の技術や機材の不足」または「お客様の修理予算の不足」等、何らかの事情でそれが叶わないとなると、、、、噛み合い量の不足分を「しょーがねーから、アンクルのツメ石をガンギ車の方向に動かして、噛み合い深くしちゃうかー」となってしまう訳ですね。

ちなみに、通常アンクルのツメ石はアンクル本体のスロット(切れ目)にある程度ピッタリと入り、その上で「シラック」と呼ばれる接着剤のようなもので固定されています。

このシラックは、主に熱帯・亜熱帯地方で養殖されている「貝殻虫」という昆虫の分泌物で、温めると簡単に柔らかくなり冷えると途端に硬く固着する性質を持っています。

また、アルコール以外の各種溶剤には溶けないので、時計部品用の接着材として都合がいい訳ですね。

アメリカやスイス、ドイツなどの通常の時計のアンクルのツメ石は、アンクルを温めることによって簡単に動き、交換したり調整したりすることができるようになっているのですが、、、先述したように、場合によってはこれが「仇になる」訳ですね。

さてさて、話しを元に戻しましょう。

アメリカにしろ、スイス、フランス、それからドイツにしろ、、、同時代の他国の時計が基本的には「クラブトゥース型アンクル式ムーブメント」を採用しているのに対して、イギリスの時計だけが「イングリッシュレバー」という独特の形状のものを作り続けたのを見ても、、、イギリス時計業界の特異性が分かりますね。

余談ですが、実はイングリッシュレバーの全盛時代においても「ミニッツリピーター」等の複雑機能の部分に関しては、イギリス国内では製造していません。

「フロッシャム」や「デント」等のイギリス時計のミニッツリピーターに関しては、スイスの「オーデマ・ピゲ」に製造委託し、テンプ等の脱着機周りや受け板などの主要部分はイギリスで作っていたのですが、当時の資料を見ると、「オーデマ・ピゲ」の社名は表に一切出させず、ムーブメントの仕様も「ギルトの3/4プレート」の英国スタイルでなければいけない、という契約になっていたようです。

つまり、「フロッシャム」や「デント」が親会社で、「オーデマピゲ」はあくまでも下請けだった訳ですね。

私の持っているオーデマピゲの資料には、「当時彼らがスイスに較べて圧倒的に優位だと信じていたことにより、、、」という記述がありますが、これも確かにうなずける「王様ぶり」だったのでしょうし、その価格も同時代の他国のものと比較して桁外れだったようです。

しかし悲しいことに、その「王様ぶり」も主に19世紀後期のアメリカ時計の台頭によって陰を潜めてゆくことになり、、、、20世紀に入る頃には、慌ててスイス製のアンクル式ムーブメントを使用した、より安価な「なんちゃって英国時計」を売り出しましたが、、、時すでに遅し、だった訳ですね。

以上、あくまでもざっとですが、、、アンティークウォッチにおける「時計のお国柄」、何となくイメージいただけたでしょうか?

お粗末ながら、皆さんの時計選びの参考にしていただければ幸いです。



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 コラム

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