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バージ天芯(天真)製作

時計部品製作

NOTICE:This article written in Japanese.

(公開日: 2010/04/11)

今回のプロジェクトは、19世紀初頭のフランス製バージ式(冠型脱進機)懐中時計の天真(天芯)製作・交換です。

ご覧のように既存の天真は、過去に胴体部分から破損したと見え、ハンダ付けしてありますが、全体に歪んでしまったいるだけでなく、上下の旗(パレット・またはバージ)の向き合い角も無茶苦茶ですし、上部の方はハンダに埋もれたような状態ですから、勿論時計はウンともスンとも動きません。

この場合、唯一の修理法は天真の新規製作・交換です。

尚、当時の天真は主に真鍮の丸棒の中心に鋼の板を挟んでロウ付けし、板状の鋼の部分に捻りを加えてパレットを加工してゆく方法で作られていますが、パスタイムでは全て鋼の一体物で精度の高い天真を独自の方法で製作しています。


上部パレットの製作途中

まず、適切に焼き入れ・焼き戻しをした鋼の丸棒を旋盤にセットし、順番に下ホゾ(軸先端)・下部パレット・胴体部分と切削・加工・研磨してゆきます。

※製作初期段階においての工程の画像に関しては、一部技術機密的な理由で割愛させていただいておりますが、ご容赦下さい。

次に、上部パレットを加工・研磨してゆきます。


天真下半身の完成画像

上部パレットが適切な形状・寸法に加工され、これで下半身部分は完成です。

上下のパレットはある一定な角度で向き合っていなければなりませんが、特に19世紀に入ってからのバージ天真の多くにおいては、より大きなテンプの振り角を得る目的で、当時から角度が開きすぎている物が多く存在することが分かっています。

この場合、必然的にクラウンホイールを近づけざるを得なくなる為に、天真に掛かる横圧力が大きくなりますが、これが多くのバージ時計をいわゆる「ちょい止まり」させる原因の一つとなっています。


天真上部にかけての切削

上部パレットの隣(画像中左側)はヒゲ玉の取り付け部分になり、そこから更に左に向かって天輪の圧入部分、天真の上ホゾとなります。

いずれにしても、このままでは上半身を厳密な寸法まで加工することができないので、必要な長さを残して一旦切り離します。


天真上半身・加工前

切り離した天真を反対向きに旋盤に固定し、上半身を切削してゆきます。


天輪圧入・かしめ部分
天輪の試験的な圧入

まず、天輪の圧入される部分を厳密に切削します。

次に圧入されたテンワをかしめ付けるための堀り込みを加工します。

中心の軸に向かって、かなり深くすり鉢状に掘り込まれた様子がお分かりでしょうか?

下は、加工した圧入部分にテンワを嵌め込んでみたところです。

これは試験的に行うものですので、寸法の適当なことが確認できたら再び外します。


天真上半身・上ホゾ完成

最後に、天真の上ホゾを切削・研磨し、厳密な寸法が得られた後、バニッシャー(マチやすり)と呼ばれる特殊な工具で更に表面を硬化させます。

このように仕上げて黒光りしたホゾは、ツルツルで抵抗が少なくなるだけでなく表面が非常に硬いので、長年の使用に耐えるものとなります。


交換前の天真・製作した天真
交換前の天真・製作した天真

交換前の天芯と製作した天真の比較です。

上下パレットの向き合い角の違いは一目瞭然です。

また、交換前の天芯は天輪の圧入部分とヒゲ玉の取り付け部分が真鍮ですが、新たに製作したものは上から下まで鋼(炭素鋼)の一体整形です。

よく見ると、元の天真の胴体・パレット・上下ホゾは元々板状の鋼が真鍮部分に挟み込んである物であることが見て取れますね(もっとも、この天真の場合、一回胴体部分辺りでロウ付けされていますが、、)。

冒頭でもご説明したとおり、この加工法は殆どのバージ懐中時計の天真に用いられている習慣的なものですが、それ自体には全く問題のないものです。

当時の限られた工作工具による製作において、純粋に最も都合の良い方法ではあったのでしょう。

しかしながら、現代において入手可能な工具を用いて新規に製作することを考えた場合、ロウを使って2ピースにすること自体には何のメリットもないのはお分かりいただけると思います。


完成後の天真。天輪にかしめつけられたところ。

完成後の天真を天輪にかしめつけたところです。

この時点で既に厳密な寸法が出ていますので、あとはアンクル式などの時計と同様に、天輪の振れ(歪み)や片重りを取り除いた後、ヒゲゼンマイを取り付ければ終了です。

ちなみに今回のこの懐中時計の場合、天真以外にも大変多くの欠損箇所があったのですが、全ての処置を終えた後は、まさに「絶好調」のバージ時計になりました。



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 修理・レストア

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