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時計の今と昔

時計の話

NOTICE:This article written in Japanese.

(公開日: 2010/03/21)

こんにちは。パスタイムの中島です。

今回のタイトルは「時計の今と昔」です。

時折、店頭にいらっしゃるお客様から、「自分の代で使い捨てるような物ではなくて、孫子の代まで受け継いでゆける時計はないのか?」と聞かれます。

この場合は、うちの店頭にある商品のみを視野に入れているのではなくて、現代物を含めた時計全般を選択肢に考えていらっしゃる場合が多いようです。

このような疑問にお答えするには、かつて機械式時計のみが全ての選択肢であった時代と、クオーツ時計他、電気的な方式の時計が選択肢にある現代との違いを考えてみなければなりません。

少なくとも100年以上前、一部の例外品を除いて時計は全般ににとても高価なものでした。

これは当時、時計作りが熟練したウォッチメーカー、ダイアルメーカー、ケースメーカー達の手作業なしには作りえなかったことが一番の要因でしょう。

勿論その中でも色々なグレード・レベルのものが存在しますが、いずれにしてもかなりの工程に人間の手が必要であったことは間違いありません。

アンティークの時計をあらためてしげしげと観察してみると、歯車やスプリングなど各部品の研磨・面取りは勿論のこと、文字盤や針・ケースなどといった外装的な部分に至るまで、あちこち人の手によって仕上げられていることが見て取れます。

結果、一つの時計を完成するのに必要な時間は現代と比べ物にならぬほど膨大なものになり、当然のことながらその費用を負担できるのは一部の富裕層に限られていました。

ちなみにこの傾向は、時代が遡れば遡るほど顕著になります。

作り手として、一部の階級の人々のみを対象に考えた場合、予算的なものに大きな縛りがない分、工法は妥協点の高い念入りなものになります。

一方で、それほど高価な時計は当時の家屋敷同様、それなりの資産的な価値が設定されますので、持ち主の代で簡単に使い捨てられるようなものとは受け止められていなかったようです。

使用によって劣化することが予想される部品はあらかじめ充分な硬度を持たせた上で念入りな研磨仕上げを施されていますし、必要とあらば、個々の部品を再製作・交換して修理することが可能な設計とされています。

きちんとした再生整備さえ施せば、優に百年以上の歳月を経てきた時計が設計当時と大差のない精度を発揮する現実を目の当たりにすると、当時の時計作りの方針は間違っていなかったことが実証済みです。

一方、現代の時計はどうでしょう?

まず、電気的な仕組みを使用した時計に関しては、ご存知の通り実用面・精度面において大変優れたものが登場しています。

クオーツ時計にしても、上級品に関しては年差10秒以内といったものがありますし、電波によって補正を行ういわゆる電波時計に関しては、実際のところ補正さえ正常に効いていれば誤差がありません。

家電と同様に機械的な量産が可能な設計ですから、価格的にも機械式の時計に較べてかなり割安ですし、ほぼ例外なく防水機能などの実用的な機能も満載していますから、実用的にはまさに鬼に金棒でしょう。

秒針の刻み方に人間味がなくて嫌だ。デジタル表示が好きになれない。軽くて存在感に欠ける。等など、人によっては感覚的な好みに合わないということはあるようですが、これはあくまでも個人的な感覚の差ですし、絶対的な価値観とは言えません。

定期的に決められた規格の電池の交換が必要なことから、電池の入手の困難な辺境地で嫌われると言われますが、これも少なくともわが国では問題のないところでしょう。

実はこれら電気式時計の唯一の欠点は、「寿命」にあります。

回路や抵抗などの電気部品を使用する機械は、一般的に言って数百年もの寿命を持ちません。

往年のクオーツ時計などは何十年か経った今でも問題なく動いている物もありますが、やはり構造的に今後数百年は難しいでしょうし、そもそもメーカーもそれほどの長寿命を意図していないことは明らかです。

もっともこれらの時計の場合、購入者側にも代々受け継いでゆく、という意図はないことが想像されますから、これを「欠点」というべきかどうかは難しいところですし、あくまでも、敢えて往年の機械式時計と比較して劣る部分、という意味合いですが。

それでは次に、現代の機械式時計はどうでしょう?

ご存知の通り、近代の機械式時計には往年のそれと比較して何点もの実用機能が備わっています。

日付け、または曜日まで分かるカレンダー表示、防水機能、衝撃に対するある程度の耐震機能、耐磁機能など等。

往年の機械式時計と比較して、かなり利便性性が向上していることは間違いの無い事実です。

しかし、これは電気式時計と比較した場合、決して優れているとは言えないものです

電気式のものにおいては、日付表示は元より潮位の表示やGPS機能等何でもありの状態ですし、耐震性に関しても遥かに強力なものがあります。

加えてご存知の通り、精度面でも全く比較になりませんし、価格的にも太刀打ちできません。

こう考えてゆくと、やはり機械式であるゆえに長寿命が唯一の絶対的なメリットで、となるところですが、、、あれっ、、?

そんなに永く使い続けられるだろうか?

残念ながら、答えは「NO」です。

メーカーによって差はありますが、極めて一部の例外品を除いて、基本的に現代の機械式時計は設計・構造上、かなりの割合の構成部品において一定期間で交換されることが想定されています。

これは、かつてのように人の手や時間を掛けてムーブメント自体を丈夫に作るよりも、金型や放電加工を含めた量産型の方式で部品を大量に作っておき、消耗したらどんどんユニット交換してゆく方が遥かに合理的だからです。

天芯やヒゲゼンマイの交換できないテンプ。極めて柔らかい材料でできた軸や歯車、穴を詰めることのできないアルミの香箱など等、メンテナンスから帰ってきた後観察すると、かなり交換されてくるものが多く、「出す前と歯車の仕上げが変わっちゃった(涙、、実話です)」などということも珍しくありません。

勿論、それでもメーカーが永久にメンテナンスを引き受けてくれれば時計は代々使えることになります。

但し、そういうメーカーはかなり少数ですし、充分な時計用の工作機械と確かな技術さえあれば誰でも修復できるアンティークの時計と違って、活かすも殺すも完全にメーカー任せにならざるを得ません。

したがって、その時計を代々受け継いでゆくにあたっては、メーカーが存続し続けることが絶対条件になってしまいます。

めまぐるしく吸収・合併を繰り広げる現在のスイス時計業界をみると、なんとも不安な感じがするのは私だけでしょうか?

実際に近年、かつて人気のあった某メーカーが違うグループに売却されるに伴って、時計のオーナーが一切メンテナンスを受けられなくなった例をご存知の方も多いでしょう。

結局のところ、冒頭での質問に対する答えとしては、「状態良好なアンティーク品を選び、きちんと整備しながら使えば大丈夫」ということになりますね。

お一ついかがでしょうか? 

親から子供へ、子供から孫へ、そしていつの日か貴方の末裔が「うちの先祖から受け継いでいる時計なんだ」なんて言うロマンのある宝物。

良い品を沢山揃えて、皆様のご来店をお待ち致しております(笑)

次回は、「オリジナル神話」です。



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 コラム

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