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時計のオーバーホールについて

時計のオーバーホール

NOTICE:This article written in Japanese.

(公開日: 2010/01/07)

初めまして。マサズパスタイムの中島です。

昨年末にホームぺージを更新し、今後このコーナーではアンティークウォッチの蒐集や修復に関してお話させていただくことになりました。

第一回目の今回は、「時計のオーバーホールについて」です。

私は、よくご来店いただいたお客様から、「この時計をオーバーホールして下さい」と言われることがあります。

大概の場合、これは分解掃除を意味しているようですが、時には,「あちこち悪いところがあるようだから、この際オーバーホールして下さい」という申し出もあり、その場合これは部品の製作や加工・交換を含めたトータルな修理を意味するということになるのでしょう。

では、どちらが正しいのでしょうか?

実はこの「オーバーホール」という言葉は、定義がかなり曖昧です。

ちなみに、英和辞典で調べてみると、「OVERHAUL」とは、分解検査、精密検査、分解修理、となっています。

これでいくと、どちらのケースも該当することになりますが、修理作業的に言えば、分解検査と分解修理はかなり違ったものになりますので、ハッキリさせなければなりません。

そんなことで、混乱を避ける為うちではオーバーホールを、部品の加工・製作などを含まない純粋な分解掃除として定義していますが、おそらくこれは慣習的にどのメーカーやショップにおいてもある程度共通したものと思われます。

それでは、このオーバーホールによって、充分に安心して使用できるようになるビンテージ・アンティークウォッチ(正式には100年以上経過したものをアンティークと呼びますが、以下便宜上ビンテージを含みます)は、一体どの位の割り合いで存在するでしょうか?

少なくとも、私がこの20年間で見てきた感じでは、全体の一割にも満たないのが現状です(無論、レストア後の定期整備でお預かりしているものは除外しています)。

これは、私自身がこの目で厳選した商品も含まれますので、困った物です。

それなりに調子良く動いており、パッと目状態の良さそうな時計も、分解して良く観察すると多かれ少なかれ何らかの傷みが見られます。

ご存知の通り、時計の内部では主に鋼の車軸やスプリング、真鍮の歯車などが、あるところではお互いに擦れ合い、あるところではルビーやサファイアなどのベアリングと擦れています。

これが、アンティークウォッチに関しては、50年〜100年以上経年している訳ですから、傷みが無い方が不思議な訳です。

それでは、この時計を単純に「オーバーホール」して使い続けた場合、問題はないのでしょうか?

別に脅かすつもりはありませんが、その答えは突然訪れます。

さっきまでずっと快調に動いていた時計が、突然止まった。

昨日まで全く問題なかったのに、今日ゼンマイを巻いたらパチパチっと滑った。

などなど、、。

誰でも、ついさっきまで平気だったんだから大した故障ではないだろう、と考えがちですが、残念ながらそれは間違いなのです。

幸か不幸か、良い時計になればなるほど少々不具合があっても動き続けます。

そして、ある時その不具合が限界に達した時、突然止まったり歯車が滑ったりする訳ですから、そうなった時には既にかなり重症と考えられますね。

幸運にも、多少の出費は覚悟の上で完全に修復できるものに関して言えば、まあ良しとするとして、問題は、修理費用がオーナーの予算を完全に越えてしまう場合です。

単純な部品交換が困難なアンティークウォッチにおいて、歯車や地板・受け板等の欠損は、非常に高額な費用が必要になります。

こうなると、「直すよりもう一個買ったほうが安い」となりがちですが、確かに現在のアンティークウォッチ市場の相場を考えると、余程の高級品やプレミア品を除いて、修理費用が購入費用を上回るのは珍しくありません。

但し、仮に同様のものの入手が可能だったとしても、その時計を完全な状態に持っていくのに更に掛かる費用は予想できませんので、場合によっては何をやっているんだか分からなくなってしまうリスクがあります。

いずれにしても、こうなるとこのアンティークウォッチは台無しになってしまいます。

これは大変残念なことです。

意外と知られていないようですが、おおよそ1950年代〜現在製造されている機械式時計は、高級品であろうとなかろうと、ほんの僅かな例外を除いて代々受け継がれてゆける仕様で設計されていません。

如何に、雑誌や各媒体で、「永遠の時を」、「孫子の代まで」などと宣伝されていても、これは間違いのない事実です。

これらの時計は、歯車・香箱・テンプなどの主要部品をある程度定期的に交換していくことによってメンテナンスされる設計になっていますので、ある年数の経過後メーカーがアフターサービスを打ち切った時点で修理不能に陥ります。

また打ち切ることのないメーカーのものでも、そのメーカーが吸収されたり倒産してしまえば同じことで、実際に近年そういった例がありました。

ということは、今後アンティークウォッチが新たに増えてゆくことはない、ということになりますね。

そういう意味でも、今現在良好な状態にあるアンティークウォッチは大切にすべきでしょう。

今現在残っている物も一定量は、壊され、捨てられ、あるいは日の目を見ずに無視されてゆきます。

そして、あるものはきちんと修理され、くすんでしまった物の一部は新たに手を加えられてカスタマイズされ、大切にされて後年に残ってゆきます。

改めて良く考えて見ましょう。

今現在身近にある機械物で、100年以上も動き続けている物があるでしょうか?

自動車・カメラ・家電品等など、、。

やりようによってはかなり長く使えるものもありますが、数百年もの間動き続けるものとなると、構造的に類似したオルゴール、からくり人形くらいしか思い浮かびません。

最も知的で、精密で、なおかつ長寿なアンティークウォッチ。

使っても使わなくてもいいのです。

全く使わない派の方は、安全な状態で保管して下さい。

たまに思い出したように、または日常的に使う派の方は一度きちんと修復してから使って下さい。

そして、2〜3年毎の「オーバーホール」を忘れずに。

現オーナーである貴方のためにも、将来のアンティークウォッチファンのためにも、そして、、、少しだけ、それを生業とする私達のためにも(笑)

次回は、「アンティークウォッチのコンディションについて」を予定しています。



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 コラム

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