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「懐中時計修理」歯車の製作編

NOTICE:This article written in Japanese.

(公開日: 2017/06/29)

ブログ 「回想」 のシリーズがまだまだ続く中、今日は、それとは別に、久しぶりに時計のお話しを。

このところ数か月、岩田も私も、かなりタフな内容の修理が続いている。

人形の動作のおかしなオートマタ付き1/4リピーター、、、誤作動の嵐(?)のミニッツリピーター、、、そして何個かの難物を乗り越え、やっとシンプルな単機能の時計になったと思ったら、、、複数点の歯車が完全にアウトだったり、、。

そんな中でも、先月終わりから岩田が掛かりっきりになっていた「1800年頃製造 オートマタ、オルゴール、1/4リピーター付きシリンダー時計」 は桁外れに難物だったが、、、今回ご紹介するのは、その時計のガンギ車製作。

「シリンダー脱進機のガンギ車」 などと言っても、形状がピンと来る人はアンティークウォッチの愛好家か時計屋くらいだろうけど、、、この歯車は、数ある時計の歯車の中でも、最もヘンテコな恰好をしている。

ちなみにこのタイプの歯車を持った時計は、18世紀の半ばくらい~20世紀の初頭に掛けて、イギリス、フランス、スイスで作られていたもの。

形を見れば想像がつくように、一般的な歯車を製作する時のような 「歯切り」 で製作出来るものではないが、かつてはこの歯車ばかり作る専門業者が存在していて、特に19世紀の半ばあたりには、スイスで相当量製造され、数々のメーカーに供給されていたのだ。

余談だが、、手元のNAWCC(全米時計協会)の資料を見ると、現在、高級時計として知られる 「バセロン コンスタンタン」 は、当時シリンダー式ムーブメントを量産して他社に供給しているし、 「Patek Philippe」 の時計も、ごく初期は、シリンダー式のものがあって、パスタイムでも15年ほど前に一度だけ販売実績がある。

いずれにせよ、シリンダーウォッチは、パスタイムの修理現場では頻繁に出くわすタイプの時計なのだが、、、ガンギ車の製作は、今まで一度も例が無かった。

というのも、ガンギ車の歯が決定的に破損したり摩耗したりしている時計はそう多くないし、どうしても交換が必要な時は、ストックしている 「未使用の歯車」 のAssort(様々なサイズ、歯数のセット) の中から合致するものを選び出し、加工・使用することが可能だったからだ。

しかし、困ったことに、今回の時計は違った。

元々時計自体がかなり珍しいものだったこともあり、、、ガンギ車の歯数も外径も、ストックパーツと、全く合わなかったのだ!!

ちなみにそのガンギ車は、かつて、どっかの誰かさんが歯を折ったと見え、、、なんと、無くなった一枚の歯のところに、他所から持ってきた歯をリベット留めしてある状態。

でも、その一枚は明らかに他よりも短く、また、高さ、形状も違うから、まともに作動する訳がないし、、おまけに、その周りと高さの違う歯車に合わせようと、天真のパイプ部分もガリガリと削ってしまってあり、、、トホホ、全く、ようやってくれるわ、、。

こうなると、、、残る手は、「作る」 のみ。

しかし、 歯切り旋盤では、出来ない。

ということで、岩田と、すっかり彼の愛機となっている 「NC フライス盤」 の二人三脚が始まった。

1日目。

設計図面の製作 → データ・指令の入力 

→ 特殊冶具の製作 → 試作品の製作 → データ修正等

スマホさえ使いこなせない私には、、、全く縁遠い作業の連続。

「ブイーン ブイーン ガリガリ」

私が自分の 「難物」 と苦闘している間も、、、店の奥では、フライス盤の音が響いている。

岩田が作業を始めてから、2日目。

試作した歯車を見ると、、、おおよそはいいが、、、細かいところでは問題が。

どうやら一番の問題は、、、表面を切削した後、裏面を加工するために品物をひっくり返した際の、微妙な位置のズレのようだ。

冶具や行程に修正を加えて、、、再び 「ブイーン」

3日目。

夕方、岩田と別件の修理の話しをした際に作業台を見ると、、、ネジやら、スプリングやら、別の部品の製作を始めているようだが、、。

閉店後、みんなを帰して自分の仕事を仕上げ、、、帰り際に再び岩田の作業台を見ると、、、あれっ!?

なんだ。 動いているじゃん!!

翌日、本人に確認すると、 「あー、天真も作り直したし、脱進機はもういいんですけど、、、まだオルゴールのピンや櫛が、、」 と、次の話しになっている。

改めて見れば、、、天真もガンギ車も新品になったシリンダーウォッチは、絶好調な動きをしていたのだ。

ご興味がある方は下記ホームページ記事をご参考下さい。

シリンダー脱進機ガンギ車製作



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 コラム

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