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アンティーク時計の針

時計の話

NOTICE:This article written in Japanese.

(公開日: 2017/04/13)

前回の投稿の最後に  「また明日ー」 などと書いたのに、、、昨日は全く時間が取れず、、と言い訳から入る、今日4月13日。

今日は 「針」 の話し。

このところのパスタイムでは、アンティーク時計の 「針」 にこだわりを持つ方が増え、針製作の依頼が多くなっている。

元々アンティーク時計のファンは、 「機械式時計はムーブメント!」 という方、 「文字盤が一番大事だ!」 という方、はたまた 「一番気になるのはケースやリューズ」 といった外装パーツという方、実に様々。

まあこの点に関しては、純粋に趣味のもの、つまり 「遊び」 なのだから、それぞれの趣向で大いに楽しんでいただけたらいいと思うが、、今回は、とにかく針にスポットを。

機械式時計の時刻を読むには、誰でも必ず、針を見る。

そういう意味では、数ある時計の構成部品の中で、持ち主が 「目にする機会が最も多い部品」 と言えるかも。

そう考えれば、関心の高い方が多くても、不思議ではないのだ。

ビンテージの腕時計にしろアンティークの懐中時計にしろ、大概の機械式時計には時針、分針、そして秒針がある。

デザインや寸法は様々だけど、これらは総じて華奢でか弱いものだから、、、分解作業や取り付けの際に、ダメージを受けることが非常に多い。

製作されてから100年を越えたアンティーク時計に関して言えば、針が全くダメージを受けていない状態で残っているものは、少数派。

大半は、時分針のいずれかが 「違ったデザイン・仕様の針」 に交換されていたり、そうでなければ、先端が折れていたり曲がっていたり、、、場合によっては 「3本とも後家さんだー!!」 なんてことも、珍しくはない。

「変なのが付いてるなら、ちゃんとしたのに取り換えればいいじゃん」 と言いうようなもんだが、、、実はこれ、修復の現場においては、 「天芯(天真)」 や 「歯車の軸」、 「ルビーの穴石や伏石」 等の内部部品の製作や交換よりも、遥かに厄介な仕事になる場合が多いのだ。

アンティーク時計に関して言えば、殆どの場合、用意された 「メーカー純正の針」 は無いし、入手も困難。

唯一、同一のモデルが量産されていたアメリカ製の鉄道時計等に関しては、当時、社外(スイス製が多い)で製造・販売されていた交換用の針が残っていたりすることもあるが、、、これとて、実際に取り付けてみると、軸に刺す部分の穴の寸法が合わなかったり、文字盤のインデックス(分の刻み)まで微妙に届かなかったり、長すぎたり、、、そもそも、針自体の太さや細部の仕上がりなども、完全にマッチしていない場合が多い。

これが、元々針が一本一本、絶妙な手仕上げで製作されているスイスやフランス、イギリス、ドイツ等の時計となると、他の個体から持ってきた針が 「たまたまピッタリ」 は、期待する方が無理。

例えば、外径が同じ大きさの、同時代、同メーカー、同ムーブメントの時計を二つ並べてみたとしよう。

文字盤の外径はほぼ同じ場合が多いが、文字盤の中心から分のインデックスのサークルまでの距離を測ってみると、、、殆どの場合、寸法は厳密に一致しない。

つまり、どっちかの分針をもう一方に持ってくると、、、「僅かに長すぎる」 か 「僅かに短い」 ということになる訳だ。

「短いのはともかく、長いなら切っちゃえばいいじゃん」 ってなもんだがが、、、「根元から先端付近までただひたすら同じ太さで真っすぐな針」 ならともかく(そんな針はまともな時計ではまず存在しない)、 「太くなってから途中細くなり、また太くなってから最後に細くなる」 とか、ブレゲ針のように  「途中で丸い輪っかがあって、そこから先端まで絶妙なバランスで細くなる」 なんてのが殆どだから、、、長さを切ると、妙にバランスが悪くなってしまう。

また、時針、分針、秒針はそれぞれの軸にブスッと 「刺さって固定される構造」 なのだが、高級な時計になればなるほど、この穴の微妙な圧入感を針の作り手が個々の時計に合わせて仕上げているものだから、、、他の個体のものは、まず合わない。

穴がユルユルな針を 「接着剤で取り付けてある」 のを日常的に目にするのはそういう訳。

でも、糊はダメでしょ糊は。

まあ、純粋に穴の寸法だけの問題なら、加工して使用することは可能だが、、。

という訳で、針がおかしなことになった時計を 「元通り」 にするには、大概 「当時の専門職がやった事」 と同じ事をせざるを得ない訳。

つまり、金なら金、鋼なら鋼から削り出して、新たに作るしかない。

(ご興味のある方は下記ご参考下さい。)

分針製作

腕時計秒針製作

分針製作2

懐中時計秒針製作

当時の 「針職人」 は、来る日も来る日もこればかりやっていたわけだが、、、これが、想像を絶する大変さ。

スケッチ→切り出し→粗削り・穴開け→整形→研磨仕上げ。

「青焼きの針」 の場合は、これに焼き入れ・焼き戻しが加わる。

初期段階の工程は工夫次第で比較的スピードと上げることが出来るが、、、段階を経るにつれ、どんどん細くなり、力を入れられなくなって、、。

研磨・仕上げの段階に入ると、もう、どこをどう保持しても研磨済みの部分に微かなキズが付きそうで、、、最後は、ツメでそうっと摘まんで、みたいな感じになることも多いのだ。

他の作業と比較してやたらと時間が掛かるということは、当然、お金が

掛かるということ。

参考までに、最もシンプルな形状の針でも、1本10万円以上~。

ちょっと聞くと実に馬鹿げているし、私などとても依頼できない値段だが、、、さりとて、立場上店を潰すわけにはいかないから、ご理解いただくしかない。

更にこれが 「K18のルイ針」 に至っては、通常の 「削り出し」 や「旋盤加工」  に加え、 「手彫り(洋彫り)」 の技術が必要だから、、これを出来るのは、うちでも 「エングレーバーの辻本」 しかいない。

で、時・分・秒針の3本セットの製作が入ると、ヤツの手はほぼ一ヶ月塞がった状態に陥り、、、他の仕事が溜まる。

いきおい、私の心臓にも良くない、、。

ということで、 「ルイ針愛好家」 のNさんには 「年間3セットまで」 で、ご了承頂いているのだ。


ルイ針製作
ルイ針製作
完成したルイ針
完成したルイ針

ルイ針製作ページリンク

ちなみに、ルイ針製作の費用は??

私の 「マイカー」 (4月7日の投稿参照) を3台買っても、、、まだお釣りがくる金額なのだ!!

うーん。 これって、針が高いのか? それとも マイカーが安いのか?

ではでは皆さん、またお会いしましょう。



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